8月 6, 2025 / 佐藤雅彦 / Used before category names. 市場分析・統計

ファクタリング市場規模6.2兆円突破 – 2024年成長率8.8%の要因分析

2024年の国内ファクタリング市場が、推計で市場規模6.2兆円、前年比8.8%増という力強い成長を遂げたことが明らかになった。

この数字は、ファクタリングが単なるニッチな金融サービスから、中小企業の資金繰りを支える重要なインフラへと変貌しつつあることを示唆している。

しかし、この成長は単一の要因によるものではない。

本記事では、金融アナリスト・佐藤雅彦の視点から、この市場拡大の背景にある複数の要因を多角的に分析する。

具体的には、「金融環境の変化」「フィンテック化の進展」「制度・政策の後押し」という3つのマクロトレンドを軸に、なぜ今ファクタリング市場がこれほどの成長を遂げているのかを解き明かす。

さらに、今後の市場展望と、業界が抱える潜在的リスクについても客観的な視点から考察を加えたい。

2024年ファクタリング市場の概観と成長の背景

6.2兆円市場の達成とその意義

業界調査によると、2023年度のファクタリング市場規模は約5.7兆円とされており、これを基に算出すると2024年には6兆円を超える規模へ拡大したとみられる。

この規模は、他のオルタナティブファイナンス市場と比較しても突出している。

例えば、ソーシャルレンディング(P2Pレンディング)や購入型クラウドファンディングの市場規模が数百億円から千数百億円規模で推移していることを鑑みれば、ファクタリングがいかに大きな資金循環を生み出しているかが理解できるだろう。

これは、ファクタリングがもはや一部の企業が利用する特殊な手法ではなく、中小企業の財務戦略における標準的な選択肢の一つとして定着したことを意味する。

市場成長を支えるマクロトレンド

この力強い成長は、一過性の現象ではない。

市場の構造的な変化が背景に存在している。

後述する3つの主要因、すなわち「金融環境の変化」「フィンテック化の進展」「制度・政策の後押し」が相互に作用し、市場全体の成長を後押ししているのである。

銀行員、そしてシンクタンクのアナリストとして金融市場を俯瞰してきた立場から見ても、これほど複数の追い風が同時に吹く状況は稀であり、市場が大きな転換点を迎えていることは間違いない。

市場成長を牽引する3つの主要因

要因1:金融環境の変化と銀行融資の代替需要

第一に、銀行融資を取り巻く環境の変化が挙げられる。

コロナ禍で実施されたゼロゼロ融資の返済が本格化し、多くの中小企業が新たな資金繰りの課題に直面している。

加えて、金融政策の正常化に伴う将来的な金利上昇圧力は、銀行の融資審査をより慎重にさせる可能性がある。

私が銀行の法人営業を担当していた時代、企業の財務状況が少し悪化するだけで融資のハードルが格段に上がる現実を目の当たりにしてきた。

こうした状況下で、企業の信用力ではなく売掛債権の信用力に基づいて資金を調達できるファクタリングは、迅速かつ柔軟な代替手段として需要を拡大させているのである。

要因2:フィンテック化によるサービスの進化と多様化

第二の要因は、テクノロジーの進化、すなわちフィンテック化の進展である。

AIを活用した与信審査モデルや、契約から入金までをオンラインで完結させるサービスの普及は、ファクタリングの利用体験を劇的に向上させた。

  • 手続きの簡素化:従来は対面での面談や煩雑な書類提出が必要だったが、オンライン化により大幅に削減された。
  • 入金スピードの向上:AI審査により、申し込みから最短即日での入金を実現する事業者が増加した。
  • 手数料の低下:業務効率化によりコストが削減され、競争原理も働き、手数料は低下傾向にある。

シンクタンク時代にフィンテック市場を分析していた際、金融サービスは「いかに顧客の手間を省けるか」が普及の鍵だと結論づけていたが、現在のファクタリング市場はまさにそのセオリーを体現している。

これにより、これまでファクタリングを検討してこなかった新たな顧客層の開拓に成功している。

要因3:制度・政策の後押しと認知度の向上

第三に、法制度や政府の政策が市場の追い風となっている点も見逃せない。

決定的に重要だったのは、2020年4月1日に施行された改正民法である。

この改正により、契約書に「債権譲渡禁止特約」があったとしても、その特約は原則として無効となり、債権譲渡の有効性が法的に担保されることになった。

これは、ファクタリング利用の最大の障壁の一つを取り除くものであり、市場拡大の制度的な基盤を築いたと言える。

さらに、政府が手形・小切手の全面的な電子化を推進し、2026年までに廃止する方針を掲げていることも、代替手段としてのファクタリングへの注目度を高める要因となっている。

【セグメント別分析】成長を支える業種とサービス形態

業種別動向:建設業・運送業・製造業での利用拡大

市場全体の成長を牽引しているのは、特定の業種における旺盛な需要である。

業種ファクタリング需要が高まる背景
建設業工期が長く、資材の先行購入が必要なため、支払いサイトの長期化による資金繰り悪化を回避するニーズが高い。
運送業「2024年問題」による人件費や燃料費の増加でキャッシュフローが悪化しやすく、迅速な資金化が求められる。
製造業原材料の仕入れから製品販売・入金までの期間が長く、運転資金の確保が常に課題となる。

これらの業種に共通するのは、売上が立ってから実際に入金されるまでのタイムラグが大きいという構造的な課題である。

ファクタリングは、このギャップを埋める最適なソリューションとして機能している。

サービス形態別動向:2社間ファクタリングとオンライン完結型の隆盛

現在の市場の主流は、売掛先に通知することなく手続きを進める「2社間ファクタリング」である。

これは、取引先との関係性を維持したいという中小企業の心理を的確に捉えた形態であり、利用のハードルを大きく下げた。

さらに、この2社間ファクタリングと「オンライン完結型」の組み合わせが、市場拡大のエンジンとなっている。

非対面で迅速に手続きが完了する利便性は、多忙な経営者にとって極めて魅力的であり、今後もこの流れは加速していくと分析される。

今後の市場展望と潜在的リスク

将来予測:持続的成長の可能性と競争環境の変化

今後の市場動向を予測すると、持続的な成長が見込まれる。

海外の調査機関は、日本のファクタリング市場が2033年にかけて年平均7.26%で成長するとの予測を発表している。

手形廃止が予定される2026年に向けて、この成長率はさらに上振れする可能性もあろう。

一方で、市場の成長性に着目した新規参入は後を絶たず、競争環境は激化の一途を辿る。

今後は、手数料の価格競争だけでなく、特定の業種に特化した専門性や、会計ソフトとの連携といった付加価値による差別化が、事業者の生き残りを左右する重要な要素となるだろう。

注意すべきリスク:法規制の動向と悪質業者の問題

市場の健全な成長における最大の懸念は、悪質業者の存在である。

ファクタリングを装い、実質的に高金利の貸付を行う「給与ファクタリング」やヤミ金融業者が社会問題化したことは記憶に新しい。

金融庁も公式に注意喚起を行っており、利用者に対して契約内容の精査を強く求めている。

悪質業者の手口(例)
法外な手数料を請求する
契約書に償還請求権(ノンリコースでない)を付けている
会社の実態が不明瞭である

現状、ファクタリング業そのものを直接規制する法律は存在しないが、消費者保護の観点から、今後何らかの法整備や業界の自主規制強化が進む可能性は高い。

この法規制の動向は、市場の将来を占う上で最も注視すべき不確定要素である。

よくある質問(FAQ)

Q: この市場成長はいつまで続くと考えられますか?

A: 短期的には、手形廃止が予定される2026年まで高い成長が続くと予測される。中長期的には、中小企業の資金調達手段として定着し、経済成長率に連動した安定成長フェーズに移行する可能性が高い。ただし、金融政策や法規制の変更が大きな変動要因となる。

Q: 金利が上昇した場合、ファクタリング市場への影響は?

A: 金利が上昇すると、銀行の貸出態度がより慎重になり、融資を受けにくい企業が増えるため、ファクタリング需要はむしろ増加する可能性がある。一方で、ファクタリング会社自身の資金調達コストが上昇し、手数料に転嫁されるリスクも存在する。

Q: オンラインファクタリングの普及で、手数料は下がっていますか?

A: はい、競争激化と業務効率化により、手数料は低下傾向にある。特にオンライン完結型サービスでは、人件費や店舗コストを削減できるため、低手数料を実現している事業者が増えている。ただし、手数料の安さだけで選ぶのではなく、契約内容を精査することが重要である。

Q: 悪質なファクタリング業者を見分けるポイントはありますか?

A: 契約書の内容が不明瞭、手数料が法外に高い(年率換算で貸金業法の上限金利を大幅に超えるなど)、会社の実態が不明(住所がバーチャルオフィス等)といった点が挙げられる。契約前に複数の業者を比較し、業界団体の加盟状況などを確認することが推奨される。

Q: 大企業もファクタリングを利用することはありますか?

A: 利用するケースはある。特に、サプライチェーン全体でキャッシュフローを最適化する「リバースファクタリング」や、大量の売掛債権を流動化する目的で利用されることがある。ただし、市場の主な利用者は依然として中小企業である。

まとめ

本稿で分析した通り、2024年のファクタリング市場における6.2兆円という規模と8.8%の成長は、金融環境の変化、テクノロジーの進化、そして制度的後押しという複数の要因が複合的に作用した結果である。

これは、ファクタリングがもはや単なる緊急避難的な資金調達手段ではなく、中小企業の成長を支える戦略的な選択肢として社会に根付き始めたことを示している。

今後のポイントを以下に要約する。

  • 市場の定着:ファクタリングは中小企業の標準的な資金調達手段へ。
  • 成長の持続:手形廃止などを追い風に、市場は当面拡大が続くと予測。
  • 競争の激化:価格競争から付加価値による差別化の時代へ。
  • リスクへの注意:悪質業者の存在と法規制の動向は常に注視が必要。

今後も市場の拡大は続くと予測されるが、同時に競争の激化や法規制の議論といった新たな局面を迎えることは間違いない。

事業者にとってはサービスの差別化が、利用者である企業にとっては、自社の財務状況に最適なサービスを冷静に見極めるリテラシーが、これまで以上に求められることになるだろう。

今後の動向を引き続き注視していく必要がある。

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